またの冬が始まるよ


恋しい想いは あなたへだけ…

     *腐描写まるけの、微妙にR指定文章です。
      そういうのこの二人には要らないという方は、ご遠慮くださいませ。




この島国では四季というものがあって、
暦に準じ、風に乗り、とりどりの季節が人々の暮らしへと巡り来る。
東西や南北へそれぞれに細長い領土を持つ国だけに、
同じ頃合いでも最北と最南では随分と趣も変わって来るものの、
豊穣と収穫の秋がじわじわ去り始める気配を見せ始めると、
ああ、冬が近いなと感じるのはどこでも同じであるらしく。
西空が随分と早く茜色を滲ませるようになり、
それが日に日にやはり早々と宵の濃紺に塗りつぶされるようになり。
陽だまりが声もなく薄まって、気がつけば頭上には冴えた月影。
ああ、誰かがいてくれないかと、
隣が空いてるのは何だかつまらないなぁなんて、
日頃はそんなこと思いもしない人までも、
寂寥とかいうもの、感傷とかいうものをさり気に感じる、
そんな季節の境目がやって来ているらしくって。

 「そういうの、人恋しいっていうんだよ?」

寂しがりやで甘えん坊だと、最近とみに胸張って自負している感のあるイエスが、
どう? どう? 上手い言い回しを知ってるでしょう?と言わんばかり、
壁に立てかけたこたつの脚の部分を畳みながら、
肩越しにブッダへと声を掛けて来て。

 「そっかぁ、人恋しいか。」

ブッダの側としては、長年積み上げて来た修養…を引っ張り出さずとも、
そういう繊細な感傷もまた、人の和子としての生涯の中で重々体感しておいで。
なので、知ってはいたが、でもあのね?
それが人への慈しみと同等な愛情でも、
のちに別れという苦しみを生み出すのなら、
最初から持たない方がいい、深めない方がいいなんて。
四聖諦なんてものを推奨していたほどの教祖様なだけに、
実感を伴う感情としては少しご無沙汰してたかもなんて、
そうと素直に認めてしまわれるところが、
教えへの自負はあっても慎みを忘れぬ、実直誠実な如来様たるところ。
そんな素直な感慨を胸の内にて転がしながら、
働き者な手の方は、こたつを片付けた後へ広げた寝具の上へ座り込み、
二つの枕へ順々に、洗い立てのカバーを掛けている。
暖かかったと思や曇天が続いたり、
このまま冬へ至る寒さが来るのかと思えば生温かい雨になったりと。
相も変わらず乱調な気候は続いていて。
今日はやっとまとまって晴れたので、
布団や枕のカバー類のまとめ洗いに精を出した。
洗い立てのカバーたちはどれもさらさらと心地よく、
ただ、

 「う〜ん、っと。」

糊をかけた覚えはないというに、
枕のカバーだけはいつもなかなかに手古摺らせてくれて。
半分ほどが何とか入ったそのまま、残りの部分がなかなか収まってくれないので、
わさわさ揺すって詰め物を均したり、いっそのこととぎゅぎゅうと奥へ詰め込んでみたり、
毎度の奮戦を今日もこなしておれば。

 「枕だけ微妙に新品に近いから、なかなか言うこと利かないねぇ。」
 「うう…。///////」

イエスの朗らかさには他意なぞなかろう。だが、

 「うん、確かにまともに使ってないけどさ。/////////」

二人 身を寄せ合うようにして眠るようになってから、どのくらいとなるものか。
イエスの方は多少頭の端っこを載っける夜もあるかもだけれど、
そんな彼の懐に頬を寄せての、優しく掻い込まれて眠るブッダの側は、
数えるほどしかお世話になってないものだから。
新品は言い過ぎながら、
枕自体もカバーの方も、しっかとコシがあるままなのも致し方ないというところか。
うんせうんせと頑張って何とか詰め終え、
ポンポンと軽く叩いて形を均し、出来ましたと定位置へ据えた途端、

 「じゃあ消すよ〜。」
 「え? あ・うん、いいよ。」

銭湯にも行ったし、小腹が減ったとそわそわしていたイエスには
ほうれん草を練り込んだ蒸しパンを出して、満足していただいたばかり。
そんなこんなで落ち着いて、じゃあ寝よっかと運んだには違いなかったが、
まだ布団の中へもぐり込んではなかったものだから、
ちょいとあたふた焦ってしまったブッダ様。
掛け布団の襟元を急いでめくると、
飛び込むように横になるところなぞ、

 “何か合宿所の消灯時間みたいだなぁ。”

ブッダのところだと、こういう規則へも戒律並みに厳しい罰則とかあるんだろうか。
そういや座禅を組む時、少しでも動いたら棒で叩かれてるもんなぁなんて。
妙なところへ今頃感心しているヨシュア様だったりし。
だって、

 「…ぶ〜っだ。」

明かりを消して、寝位置を落ち着かせているよなわしわしという物音がしている中で、
ちょいと間を置いてから、イエスが遊びに来たよというような声を掛ければ、

 「…えっと。///////」

まだちょっと目が慣れてないはずの夜陰の中、
それでもどんな含羞みのお顔をしているものかあっさり知れる、
かあいらしい間合いを溜めてからのお返事が返って来。
少しほど布団を持ち上げて隙間を作れば、
また しばしの間合いが挟まってから、
肘で体を支えるようにしてのよじよじと、
こちらへ身を寄せて来てくれて。
掲げた腕の下へまで、深く入り込んで来てくれるのも
イエスの甘えの度合いをようよう心得ておればこそで。
おいでと呼ばれて擦り寄ったというより、
抱っこしてよと甘えられたようなものだのに。
そのまま組み敷かれても、
抵抗の気配すら見せぬまま、抱きやすいようにと肩や懐を開いてくれて。

 “ああ、私ったら果報者だなぁ。/////////”

それはそれは長い間 大好きだった人。
深い瑠璃色の双眸そのままに聡明で物静か。
泰然としているのが頼もしく、
されど、苦衷にある者、裏切りに傷ついた者を受け止める懐ろは、
限りなく深くて優しい慈愛に満ちてもいて。
自分がそうであるように、多くの衆生へ等しく導きの手を伸べる立ち場の尊であり、
誰か一人だけを特別扱いなんてしないし、誰かのものになんてなってはくれぬ。

 そんなの重々判ってたから、
 他はどうでもいいとうっちゃってでも
 この想いだけは露見しないよう頑張ってきたのにね

憧れがそのまま狂おしいほどの恋情へと育った最愛の人と、
こんな風に抱き合えて、同じ“愛おしい”を差し出し合える身となれたなんて。
ああ、何度なぞっても 興奮が止まらない。
自分が言うのも何だけど、こんな素晴らしい運び、奇跡としか思えない。
懐へと半ば掻い込むようにして組み敷いた憧れの愛しい人は、
含羞みに視線を揺らしつつ、それでもこちらをうっとりと見上げてくるばかりで。

 「綺麗だよ?
  真っ白い肌が、なんてのかな桜のお花みたいな淡い桃色に染まってて。」

 「うう…きれいとか言わないの。////////」

女への世辞だと屈辱を感じて嫌がっているのではなく。
ブッダとしては、
剣術や体術、騎馬に格闘と、
実戦込みできっちりと鍛えた覚えも大ありの自分の肢体は、
今でも大力を発揮できるほど、頼もしくもごつごつであろうから。
嫋やかな天女たちへの賛辞のような “綺麗”なぞという方向で
褒められるはずがなんかないと思うのだろうけど。

 「どうして? 私ウソはつけないもの。」

紗がかかっているかのような淡色の、
それでいて柔らかくてしっとりしている、それはまろやかな感触の肌は、
手荒くしたら跡が残りそうなほど 気高く白く。
その下のやわらかな肉づきとともに、
力づくでキミを組み敷かんとしている乱暴者な私を、
なのに優しく包み込んでの受け入れていて。

 「…っ。」

頬をそおと手のひらで撫ぜれば、
不意だったからだろう、一瞬、こわばりかかったその緊張が、だがあっさりほどけて。
強張ったこと、倍にして埋めてあふれさせるような
それは甘い懐っこさで、彼の側からも気持ち擦り寄るように頬を押し付けて来てくれて。

 キスしても いぃい?
 う、うん。///////

訊かないでよとか、嫌だって言ったらしないの?とか、
一度くらいは言い返してやろっかと思わなくもないのだが。
明かりを落としていても判る、イエスの優しい表情に見つめられると、
そんなひねくれた意地悪なんて、どうしても言えなくなるから不思議。

 「んぅ…。////////」

口髭の触れるチクチクがあっという間にどうでもよくなるほど、
唇同士の密着は妖しい魅惑でいっぱいで。
ふくよかな自分のと違い、イエスの唇はかっちりしている印象があるのに、
触れ合わせると意外なくらい柔らかく。
そのくせ、接吻という行為に慣れているからだろうか、
巧みに動いてあっさりとこちらを咥えこんでしまう。
こんなやわらかなところなのに どうやってと、
意識の方も翻弄されるまま、唇をやや荒々しく蹂躙されて、
なのにどうしてだろうか、ドキドキして心が躍る。
いけないことだからだろうか、でも、
背徳とか後ろめたさなんて もはや感じてはいないのに?

 「あ・くぅ、ん…。///////」

互いの唇を押しつぶし合うような口づけは、
そのまま互いの肩や背中へと回された腕での抱擁にも、密を求めるせわしさを招き。
しゃにむに抱きしめ合うその“求め”が、
相手を欲する想いの深さと熱さを現していたからこそのこと、

 ふわっ、と

杏の香りが薄暗がりの中を華やかに満たしたのは、
ブッダの長い豊かな髪が、音もなくほどけて広がったから。
自制も利かぬほどに心から好きだと、
嘘偽りなくの隠しようもなく、告げられたも同然で。
もしかせずとも罪作りな言いようなれど、
終末が来ようとキミを愛してると、
叫びたくなった熱情込めて、
麗しい深色の髪ごと 愛しい人を強く抱きすくめたヨシュア様だった。





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*素材をお借りしました 『euphoria』様



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